五月女幸雄  Yukio Saotome
日本語Français

忘れられた捧げ物  油彩・金箔・鉛筆・蝋・カンヴァス 130x255cm 1990-1991サントリー美術館蔵

左|破壊 130x80cm  中央|普遍 130x195cm  右|豊饒 130x80cm

.

前衛からフランス象徴主義へ~ヴィジョンの軌跡と作品たち

五月女幸雄が私達に提示する絵画表現と技法は、特に19世紀末の象徴主義にその起源を見出すことが出来る。フェルナン・クノップフ、ピュヴィス・ド・シャヴァンヌなどに代表されるサンボリスム(シンボリスム)である。
五月女は
1960年代日本の前衛芸術運動を経て絵画の道に辿り着き、1975年、パリで個展を開いた。
作品は、逸話的世界と現実を統一された空間の中に描き出すという具象絵画であり、イメージの背景にはあきらかにネオ・シンボリスムの雰囲気が漂っていた。ただし、象徴主義につきもののメランコリーな雰囲気はより少なく、光と人間への愛に満ち溢れており、その後彼が着実に展開するヒューマンな世界を予告するものであった。
               

                    シャルル・サラ(美術史家、パリ第10大学・ナンテール大学教授)

私がはじめて五月女幸雄の名前を知ったのは、1974年に開かれた第一回北関東美術展で準大賞を得た作品を見たときである。
そこには、画面いっぱいに晴朗な気配を孕んだ広大な海と空があり、どこか見知らぬ世界から舞い込んできた使者のように、洋上で奔放に踊る新聞紙があった。
個々の対象はたしかな存在感を感じさせる熟達した技法で緻密に描き出されていながら、画面全体は、現実を超えた不思議な幻想世界へと見るものを誘い込む抗い難い力を備えていた。
徹底した自然観察に基く精緻な写実的表現と、そこから生まれる夢のような幻想性とは、その後も一貫して五月女の絵画世界を特徴づける魅力の源泉であった。

事実、白い衣装をひるがえしてのびやかに踊る女性たちや、奥深い神秘を漂わせた森、あるいは艶やかに盛られた果実や遠い世界の思い出を甦らせる古代彫刻など、五月女の絵画に登場するさまざまのモティーフは、いずれも現代世界にその存在の証を持ちながら、われわれ日常の世界とは次元の違う豊潤な理想郷を形成するものとなっている。
それはかつて詩人のボードレールが夢見た「豪奢、静謐、逸楽」の世界といってもよい。

       高階秀爾(元国立西洋美術館長、東京大学名誉教授)

.
実在と幻想のあいだに